確定申告が必要なケース
例年3月になると、事業主は確定申告のために雑務が多くなります。確定申告とは、個人が一年間に得た所得や被った損失などを計算し、税務署に申告する制度です。会社員であれば、源泉徴収で税務申告を会社が代わりに行ってくれますが、個人事業主になるとご自身で申告を行う必要があります。確定申告では申告納税制度を採用しており、納税者本人が課税標準(所得額)と納税額を計算して申告し、申告した税額を納税します。申告制度には、白色申告と青色申告があります。
青色申告は正確な記帳が必要となりますが、専従者給与を経費として算入できるなど、有利な扱いを受けることができます。白色申告は簡易帳簿でも認められますが、青色申告のように有利な扱いを受けられません。確定申告では
・申告者の住所、氏名
・どこから所得を受けたか
・どのような所得で、どの程度の利益が出たか
・どの程度の経費を使ったか
などを記入する必要があります。また、確定申告をしなければならない方の要件は以下の通りです。
給与所得がある方 |
・給与の年間収入額が2,000万円を超えている ・給与を1か所から受けていて、他の所得金額が20万円を超えている ・給与を2か所以上から受けていて、年末調整をしなかった給与の収入金額と他の所得金額の合計額が20万円を超えている |
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公的年金等に係る雑所得のみの方 | 雑所得の金額から所得控除を差し引いた結果、残額がある方は確定申告が必要です。だだし、公的年金等の収入金額が400万円以下の場合には確定申告の必要はありません。 |
退職所得がある方 | 一時的に退職金の支払いを受けた際には、支払者が所得税を徴収する源泉徴収だけで課税関係は終了するため確定申告が不要です。ただし、外国企業から受け取った退職金など、源泉徴収されていないものは申告が必要です。 |
上記以外の方 | 各種所得の合計額から所得控除を差し引き、該当する金額に所得税の税率を乗じて計算した税額から、配当控除額を差し引いた結果、残額がある方は確定申告が必要です。 |
また、住宅ローン控除、医療費控除など、確定申告を行わなければ受けることのできない控除もあります。
所得の種類を分類
所得税は各所得に応じた課税をするため、所得の性格に応じて所得を10種類に分類します。所得税の計算にあたっては、まず所得を分類し、それぞれの所得額を計算します。そこから所得を得るためにかかった費用、つまり経費を差し引いた金額が課税標準所得です。税金はこの所得に対してかかります。具体的には所得の種類に応じて、計算方法が所得税法で決まっています。
所得の種類 | 所得の詳細 | 所得金額の計算式 |
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利子所得 | 預貯金や公債・社債からの利子による所得 | 収入金額(経費の控除ではなく、支払いの際に20%の源泉が徴収されるため、課税関係は完結) |
配当所得 | 法人から受け取る利益の配当や剰余金の分配 | 収入金額-負債の利子(株式等を取得するための借入金の利子) |
不動産所得 | 土地や建物の貸付による所得 | 総収入金額-必要経費 |
事業所得 | 事業を営んでいる人の事業から生ずる所得 | 総収入金額-必要経費 |
給与所得 | 会社員等が勤務先から受け取る給与や賞与 | 収入金額-給与控除額 |
退職所得 | 退職により勤務先から受ける退職手当など | (収入金額-退職所得控除)x2分の1 |
山林所得 | 山林の伐採や譲渡による所得 | 総収入金額-必要経費-特別控除額 |
譲渡所得 | 資産の譲渡による所得 | 総収入金額-(取得費+譲渡費用) |
一時所得 | 営利を目的とする継続的行為以外から生じたもので、労務や役務の対価などの一時的な性質の所得 | 総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額 |
雑所得 | 上記に該当しない所得 |
・公的年金等・・・収入金額-公的年金控除額 ・上記以外・・・総収入金額-必要経費 |
所得によって計算式に違いがあり、中には似通った性質の所得である場合があります。特に個人事業主であれば、一時所得と事業所得の分類がしばしば争点となります。ポイントは継続的行為があるか、ないかによって分けられます。確定申告では所得ごとに所得額を計算し、最終的な課税標準額を計算します。会社員の方であれば給与所得が該当します。
損益通算とは
所得税は原則として全ての所得を合算して課税されます。これを総合課税といいます。ただし、例外として合算されない所得がいくつか規定されています。これを、分離課税といいます。分離課税は、土地や建物の譲渡所得や退職所得など、政策的な観点から税金が軽くなったり、重くなったりする場合があります。主な分離課税は以下の3つです。
・退職所得
・山林所得
・不動産および株式等の譲渡所得
「今年は赤字を出してしまったから、税金を払うのが苦しい」という個人事業主の方もいらっしゃるかと思います。その時に必要となる知識が損益通算です。損益通算とは、各所得金額の計算上で特定の所得の赤字があった場合、その他の所得の黒字から差し引くことができる制度です。赤字の所得を損益通算することができれば、赤字分をその他の所得から差し引くことができるので、全体の所得が少なくなり、税金を低く抑えることができます。損益通算の対象となるのは損失であって利益ではないので、もともと損失が生じない所得である給与所得や利子所得などは損益通算の対象となりません。損益通算ができる所得は以下の4つです。
・不動産所得
・事業所得
・山林所得
・譲渡所得
覚えるときは、不事山譲(富士山上・ふじさんじょう)と暗記するといいでしょう。損益通算の受け手となる所得は、利子所得、給与所得、退職所得、配当所得、一時所得、雑所得です。損益通算は個人事業を営む上で非常に重要となります。
まとめ
ご自身で一度も確定申告をしたことがない方にとっては、とっつきにくい話題かもしれません。しかし、確定申告の概要を覚えておくことで、様々な控除を受ける際とても簡単に理解することができますから、知っておいて損はありません。会社員の方も会社任せにせず、一度確定申告にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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